2024年02月05日
主 催/MS&ADインシュアランスグループ
共 催/読売新聞社
後 援/公益財団法人日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会、 一般社団法人大学スポーツ協会、福岡市教育委員会
協 力/九州産業大学、福岡県障がい者スポーツ協会、モノクライミングスタジオ、NPO法人 幼児教育従事者研究開発機構
MS&ADインシュアランス グループの主催する体験型スポーツイベント「MS&AD Well-being Sports Project 晴れスポ」が1月27日、福岡市東区松香台の九州産業大学の大楠アリーナ2020で開催された。このイベントは、日本各地でランニング教室やパラスポーツのアスリートらとの交流を通した「共生社会の実現」を目指し、2022年秋にスタート。23年に入って名古屋市、金沢市、そして京都市に続き、今回が今年度最後となるイベント開催となった。九州では初となるイベントに、近隣の住民を中心に親子ら計約155人が詰めかけ、運動に最適な環境でアスリートらと伸び伸びと身体を動かした。
MS&ADインシュアランス グループは「活力のある社会の発展と地球の健やかな未来を支えること」を企業理念に掲げる。それを受け、新たなチャレンジに踏み出す人々を支えていきたいという強い思いを抱き、スポーツ支援も積極的に行ってきた。「晴れスポ」も、スポーツを通じた「共生社会の実現」を目指して企画。「スポーツを体験して、心も身体も晴れ晴れしよう」をテーマに、アスリートらの指導によるランニング教室やパラスポーツ体験を通して、参加者に体を動かすことの喜びを伝えることが大きな目的だ。こうした体験会に加え、講師を務めるアスリートが自らの競技体験などについてユーモアを交えて披露するトークショーも、スポーツの魅力を身近に感じられるイベントの目玉となっている。
今回は、福岡県古賀市出身で、15年と19年のラグビー・ワールドカップ(W杯)で日本代表に選ばれ、WTB(ウイング)として活躍した福岡堅樹さんがゲストで参加。さらにMS&ADインシュアランス グループ所属のアスリートから、アテネと北京の五輪に出場し、現在は三井住友海上の女子陸上部でアドバイザーを務める土佐礼子さん、中学3年生の時に視力低下や視野の欠損を起こすレーベル病を発症しながら、陸上や相撲など様々なスポーツに挑戦し、現在は視覚障がい者柔道の選手として28年の米・ロサンゼルスでのパラリンピックの出場を目指す田中司選手(三井住友海上)、そして、視覚障がいを抱えるパラクライミング選手として昨年8月にスイスで開かれた世界選手権で優勝した會田祥選手(三井住友海上あいおい生命)がイベントに加わった。
各競技の体験に先立ち、福岡県久留米市出身のフリーアナウンサーである黒田りささんによる進行で、参加アスリートによるトークショーが行われた。現役を引退し、現在、順天堂大学医学部に通う福岡さんは、アスリート人生の中で記憶に残っているエピソードについて尋ねられると、19年に日本で開かれたW杯でベスト8に入ったことを真っ先に挙げた。「つらいこともあったが、ラグビーをやっていてよかったと思った一番の出来事」と話した。現在は医学部の3年生として、勉強に明け暮れる日々で、イベント前日も試験があり、イベント当日に朝一番の飛行機で東京から駆け付けたことを打ち明けると、会場からは驚きの声が上がった。
土佐さんは当初、実業団の選手としての実力が自分にはないと思っていたが、アメリカ・コロラド州のボルダーで約1か月の合宿に参加することで、競技の自信がついた時のエピソードを披露。「だから、人って1か月で変わることができる。どんなことでも諦めずに挑戦してほしい」と参加した子どもたちを激励した。
田中選手は子どもの時に野球に夢中になり、その後、相撲部屋に入門して「徳島」というしこ名で序二段まで昇段した思い出を話してくれた。その後も陸上でやり投げや円盤投げに打ち込んだことや、昨年3月に視覚障がい者柔道に転向した経歴について話してくれた。「昨年競技を転向したばかりなので、今年パリで行われるパラリンピックには間に合わなかったが、次のロスでは出場を目指したい」と力強く語った。
會田選手は10歳のころ、母親に勧められてパラクライミングを始め、現在はW杯や世界選手権で連続優勝し、トップアスリートとして知られる。昨年6月にオーストリアのインスブルックで開かれたW杯で優勝したことのうれしさを伝え、「正式種目採用が検討されている28年のロスパラリンピックに向けて練習を重ねている」と教えてくれた。いずれのエピソードも、テレビの競技場面などからはうかがい知れない、人間としての素顔が伝わってきて、イベントに参加した人たちも興味深そうに耳を傾けていた。
トークショーに続いて、待望のスポーツ体験が行われた。土佐さんはランニング教室を担当。福岡さんもその中で、ラグビーのパス回しの動きなどを取り入れた練習を紹介した。田中選手は、ターボジャブという小型のやり(長さ70センチ、重さ約300グラム)の投てき(ジャベリックスロー)を実演。會田選手は高さ約3メートル、幅約4メートルの仮設のボルダリングウォールを使ってクライミングを見せた。さらに、福岡ボッチャ協会のサポートでボッチャの体験も行われた。
会場となった大楠アリーナ2020は、九州産業大学の創立60周年を記念して2020年に完成したばかりの複合スポーツ施設。公式のバスケットボールコートが4面同時に設置できる西日本最大級のフロアを備え、最大5000人を収容できる。こうした整った環境で参加者たちは思う存分、スポーツ体験を楽しんだ。また、参加者たちが各競技を安全かつ円滑に取り組めるよう、九州産業大学の学生たちが全体の運営をサポートした。
ランニング教室は、入念な準備運動から始まった。体験時間の半分ほどを使って股関節や肩回りなどのストレッチを行い、体をほぐしていった。さらに、安定した走りを続けるためのコツを土佐さんが実演。足裏を床について素早く引き上げるメカニズムをわかりやすく説明すると、参加者たちは走りながら、その動作を確認。
一方、福岡さんはラグビーボールを使って、後方へのパス回しの練習を見せた。「最適なパスを出すためには、相手の動きを絶えず注目しておくことが大切」と福岡さん。横一列に5、6人が並び、パスを行ったが、相手が前に出てしまい、急いで先回りしてパスをしたりして身体を動かすコツを楽しみながら体感していった。
ジャベリックスローは棒状のものを遠くに投げるため、体の動かし方にコツがいる。「手首や腕だけを使って投げずに、体全体を使うように心がけてほしい」と田中選手が投てきを実演。そうすると、ターボジャブは文字通り「矢のように」美しい放物線を描いて飛び、参加者からは「スゴーイ」と大歓声。田中選手からのアドバイスを受けながら、徐々に遠くに投げられるようになった参加者は「やり投げ」という競技の難しさと面白さを実感した様子だった。
パラクライミングはガイドの指示に従ってボルダリングウォールを登っていく。「左手を11時の位置に」など、手や脚をかける石の位置をガイドから聞きながら會田選手すばやくウォールに登り、ゴールに到達すると参加者からは拍手が起きた。
福岡市内でクライミングのジムを運営しているモノクライミングスタジオのスタッフのサポートを受けながら、参加者たちも複雑なルートに挑戦。小柄な子どもたちがすいすいと登っていくのに対し、自重のある大人たちは「こんなに力がいるとは思わなかった」と口々に話していた。
ボッチャは2チームに分かれ、目標となる白い球に自分の球を投げたり転がしたりして、いかに近づけるかを競う。福岡ボッチャ協会のスタッフからルールの簡単な説明を受け、参加者がチームに分かれて試合形式で体験した。体力などに関係なく誰でも参加でき、微妙な駆け引きも楽しめ、球を投げるごとに歓声とため息の交じった声が会場に響いた。競技の奥深さを実際に体験して、夢中になる参加者も目立った。
参加者は4班に分かれて、これらの競技を順番に体験。久木野英徳さん(57)は妻の若菜さん、小学2年生の駿太くん(8)と共に福岡市内から参加。英徳さんは特にジャベリックスローの体の動かし方に興味を持ち、田中選手の動きを見ながら動作を確認し、遠くに投げることができると子どもや妻にもそのコツを熱心に教えていた。「妻がチラシでこのイベントをみつけて、『面白そう』と応募した。元々、身体を動かすことが好きなので、スポーツを通して家族でコミュニケーションを図るよいきっかけになった」と英徳さんは話していた。
最後に、サッカー日本代表のレプリカユニフォームが当たるじゃんけん大会が行われ、参加者全員とアスリートが一緒に記念撮影。講師を務めた田中選手と會田選手はそれぞれ、パリの次にロサンゼルスで開かれるパラリンピックを目指すことを改めて宣言すると、会場からは激励の拍手が起きた。福岡さんも「引退してから、多くの人と身体を動かす機会が少なかったので、今回はとても楽しかった。このような経験も糧にしながら、立派な医師になることを目指したい」と抱負について話した。土佐さんはアドバイザーを務める三井住友海上の女子陸上競技部の強化について話し、「今後も今回のようなイベントやマラソン大会のゲストランナーなどの活動を通して、走ること、そして身体を動かすことの楽しさを伝えていきたい」と話してくれた。福岡市の整備された複合スポーツ施設(大楠アリーナ2020)で、参加者たちは心地よい汗を流すことで気持ちが通じ合った様子。自らが身体を動かすスポーツの魅力を体感できるよい機会にもなったようだ。