2020年01月09日
ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会の熱気を来年の東京五輪・パラリンピックにつなげる記念シンポジウム「From 2019 to 2020」が2019年12月12日、東京都千代田区のJPタワーで開かれた。読売新聞が2020年とその先へ向けて展開する「元気、ニッポン!」プロジェクトの一環。日本中を巻き込む盛り上がりを見せたW杯の関係者が語る成果や、20年大会に向けてアスリートらが述べた決意の言葉に、参加した343人が聞き入った。
冒頭、主催者を代表してあいさつした小池百合子東京都知事は、W杯を「ほぼ支障なく熱気のまま終わった。まさしく空前の盛り上がりだった」と評し、「この一体感、貴重な経験を来年の2020年大会につなげ、成功に導く鍵としたいと考えている」と語った。
W杯日本大会組織委員会の嶋津昭事務総長は、「大会が成功したポイントは、組織委と開催自治体の間で、緊密な協力関係を築けたことだ。両者が二人三脚でできたことが、最大のポイントだった」と振り返り、開催自治体との協力の重要さを訴えた。
「国際大会の日本開催 成功の鍵」と題したトークセッションには、W杯日本大会のアンバサダーを務めた元日本代表の大畑大介さん、元米国代表バレーボール選手で、東京大会組織委員会理事のヨーコ・ゼッターランドさんが登壇した。
ラグビーW杯は夏季五輪、サッカーW杯と並ぶ「世界3大スポーツイベント」と称される。しかし大畑さんは、「日本での認知度はそれほど高くなかったので、盛り上がりにすごく不安はあった」と打ち明け、「大いに盛り上がって、今は大成功を感じている」と顔をほころばせた。W杯の「ドリームサポーター」として告知役を担ったゼッターランドさんは、「毎試合泣いていた、というくらい感動した」と口にして、会場を沸かせた。
大畑さんは、「応援する選手、チームが活躍してくれると、喜びに感じる。その時に自分が当事者になれる」と、応援による一体感を強調。W杯の盛り上がりを東京大会へつなげるために、「人生の中で2020年に、見出しが付くくらい応援してもらえば、盛り上がりは広がっていく。自分自身がイベントの一部になることが一番大きなポイントだ」と語った。
ゼッターランドさんは、「米国選手として、1996年アトランタ五輪で自国開催を経験したが、直前まで全然盛り上がっていなかった」と振り返りながら、「都内の小中学校を訪問していると、自国開催に向けてこんなにたくさんの準備をしている国はなかなかない」と期待感を示した。W杯も「本物」が来たから盛り上がったとして、「(来年は)五輪の本物が来ますから、生で見て、感じていただきたい」と訴えた。
最後に、「ぜひ『ONE TEAM(ワンチーム)』で楽しみましょう。来年末に、おもしろかったなと皆で思えるように」(大畑さん)、「アスリートは声援に後押しされて、自分でも信じられない力が出るシーンがある。ぜひ『ONE TEAM』で、私も協力していきたい」(ゼッターランドさん)と、今年の新語・流行語大賞で呼びかけた。
W杯の大会ボランティアとスポンサー企業の活動についても発表された。
組織委員会でボランティアマネジャーを務めた神野幹也さんは、約1万3000人を採用した大会ボランティアを、「一緒になって大会をつくる、楽しみ方の一つ」と位置付けたと紹介。約1年半の準備期間を経て臨んだ本番では、観戦客から感謝されただけでなく、「終了後に皆で飲みに行くなど、一つのチームになって素晴らしかった」と話した。また、「来年(の東京大会)も同じだと思うが、世界的なスポーツイベントは、お客さんと一緒になって会場の雰囲気を作ったボランティアの力がなければできなかったと思う」と振り返った。
W杯公式スポンサーの一つ、セコムは、開幕戦など8試合が行われた東京スタジアム、決勝や準決勝などの舞台となった横浜国際総合競技場と、2会場の警備を担当した。同社の中山泰男会長は「W杯では大きな事件や事故はなかった。その裏で、ひたむきにセキュリティーを守ろうとしていた」と、大会会場での活動例を詳しく紹介した。東京五輪・パラリンピックでも大会スポンサーを務めるが、「全国の数百社の警備会社が共同企業体を作って臨んでいる。業界を挙げて、安全・安心な大会を実現していく」と語った。
東京五輪・パラリンピックへの出場を目指すアスリート4人が一堂に会したトークセッション「From 2019 to 2020」も開かれた。7人制ラグビー女子日本代表の小笹知美選手(28)が「今は男子の15人制がすごく注目されて、うらやましい」と話すなどW杯に触れながら、20年大会に向けた熱い思いが飛び交った。
空手は、東京五輪で初めて競技に採用される。植草歩選手(27)は世界選手権で優勝するなど、金メダルを有力視されるが、五輪が近付くにつれて世界のレベルが上がり、「19年はすごく苦しい1年だった」と心情を漏らした。目標とする五輪を前に、「今回のW杯のように、東京五輪では空手の魅力を自分が伝えたい。支えてくれる人、チームを信じて、絶対に金メダルを取る」と宣言した。
車いすラグビー日本代表は、16年のリオデジャネイロ・パラリンピックで初めて銅メダルを獲得した。04年アテネから、4大会連続でパラリンピックに出場した島川慎一選手(44)は、「リオでようやくメダルを手にしたが、表彰台で優勝国の国歌を聞いて、すごく悔しかった」と打ち明けた。そのうえで「今は金メダルを『取りたい』ではなく、『取る』と言っている。自分への言い訳もできないくらい追い込もうと思っている」との決意を口にした。
リオ五輪で初めて実施された7人制ラグビーで、女子日本代表は12チーム中10位に終わった。横尾千里選手(27)は、「出るだけでは何も変えられないと痛感した五輪だった」と振り返り、「東京五輪では何色でも良いのでメダルを獲得して、女子ラグビーの環境を変えたい」とメダルへの意欲を語った。
大学時代までのサッカーから、ラグビーに転向した小笹選手は「五輪はラグビーを始めた時から目指している場所だ。W杯の盛り上がりをそのまま出せるように、一日一日を過ごしていきたい」と話した。
最後に質問を受け付けると、会場からは「せっかくだから植草選手の技が見たい」との声が飛び出した。植草選手が司会のラルフ鈴木アナウンサーを相手に指名し、「寸止め」の突き技を披露すると、盛大な拍手に包まれた。
主催 東京都、読売新聞社
協力 ラグビーワールドカップ2019組織委員会、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、セコム