元気、ニッポン!

スポーツ庁委託事業「平成30年度パラリンピック教育普及啓発事業」

パラスポーツ・アスリートをもっと知ろう! in 高崎

2019年03月07日

#パラスポーツ

スポーツなどを通じて日本を元気にしようと、読売新聞が展開している「元気、ニッポン!」プロジェクトの一つ、「パラスポーツ・アスリートをもっと知ろう! in 高崎」が3月2日、群馬県高崎市の高崎アリーナ内サブアリーナで開かれ、親子連れ約30組、約60人が、競技用の義足と車いすバスケットボールを体験するなど、気持ちのよい汗を流した。

主催=読売新聞社
後援=公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会
協力=公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、NPO法人幼児教育従事者研究開発機構


「義足で初走り、風を生み出している感じ」…パラ陸上・村上清加

体験と選手とのふれあいを通じて、パラスポーツ・アスリートについて理解を深めてもらうイベントで、今年度、全国7か所で開かれる。高崎会場はその6回目で、この日は、2017年にロンドンで開かれた世界パラ陸上選手権大会の100メートルと走り幅跳びの日本代表、村上清加(さやか)選手、車いすバスケットボールの日本代表として6大会連続でパラリンピックに出場し、00年シドニー大会では銅メダルを獲得した塚本京子さん、元陸上競技日本代表で、08年北京オリンピックの400メートルリレーで銀メダルを獲得した高平慎士さんの3人がゲストとして参加した。

村上清加選手

塚本京子さん

髙平慎士さん

新保友映アナウンサー

イベントは、フリーアナウンサーの新保友映さん(元ニッポン放送)の司会によるトークショーで 幕を開けた。

その中で村上選手は、義足を使い始めて、ちゃんと歩けるようになるまで約1年、100メートルを走れるようになるにはそれに加えて約半年、合わせて1年半かかったことや、競技用の義足を着ければすぐに走れると思っていたが、実際は日常用のものと感覚が違って、最初は立ち上がるのさえ大変だったというエピソードを紹介。

初めて義足で走った時のことを、「風に吹かれるのではなく、風を生み出している、という感じがしました。『走るってこんな感じだったんだ』と、すごく気持ちよかったです」と話した。

そして、競技用の義足が高額なこと、生活必需品でないとされ、補助や助成が受けづらいことを説明し、「せめて義務教育の間でも、それらが受けられるようになるといいですね」と訴えた。

村上選手の義足を持つ参加者

塚本さんからは日常生活用、競技用、それぞれの車いすの違いについて説明があった。たとえば、バスケットボール用は、素早くターンをするために、日常生活用より車輪の角度が大きくなっているとか、足元のバンパーはぶつかった時に乗り上げたりしないよう、地面からの高さがルールで決められており、試合前の審判のチェックをクリアしないと試合に出られないといった説明があり、参加者の興味をひいていた。

バスケットボール用の車いす

上村知佳さんによる実演

塚本京子さんによる実演

北京五輪リレー銀の髙平慎士「五輪出場、陸上選んでよかった」

高平さんからは、陸上競技を始めるきっかけについての話があった。それによると、小学校時代は野球と陸上の両方に打ち込んでいたが、野球の方に熱中していたそうだ。陸上の市内大会でよい成績を残したことから、「学校の先生に勧められ、中学から陸上一本に打ち込むようになった」とした上で、「プロの野球選手ともお付き合いがありますが、全然レベルが違います。オリンピックに出場することができたので、陸上を選んでよかったと思います」と話し、参加者の笑いを誘った。

最後の質問コーナーでは、「試合前に緊張しますか?」「1日の食事の量は?」といった、かわいらしい質問も飛び出し、なごやかの雰囲気のままトークショーは終了。

「シュートは、胸元からバンザイするよう投げる」…車いすバスケ・塚本京子

続いて、会場を二つのスペースに分け、それぞれで競技用義足と車いすバスケットボールの体験会が開かれた。

6回目の体験イベントとして、今回初めてお目見えしたのが、車いすバスケットボールだ。こちらのコーナーでは、塚本さんと一緒に、00年パラリンピックシドニー大会で銅メダルを獲得した上村知佳さんが説明とお手本を示す役を担当した。

上村さんはまず、車いすでまっすぐ走るコツとして、「同じ力で両輪を回すように」とアドバイス。片方の車輪を手でタップすることで、くるっと車いすが後ろ向きになることを実演して見せた。シュート練習では、塚本さんから、「両手で上から投げるのではなく、胸元からバンザイするように投げ上げる」とのアドバイスがあった。おかげで、最初なかなかゴールに届かなかったボールが、次第にゴール近くまで届くようになり、ゴールに入るたびに歓声が上がっていた。

母親の紗映子さん(39)と弟の隼人ちゃん(1)と一緒に参加した小学2年生の野村莉人(りひと)君(8)は、車いすバスケットボールを体験してみて、「ゴールはできなかったけれど、とても楽しかった」と笑顔で話していた。

シュート練習

「転びそうも、前向いて頑張ったら歩けた」…義足体験者

競技用義足体験では、子ども用2組に加え、大人用1組も用意され、保護者も一緒になって体験した。やや前かがみになって足を踏み出すのがコツで、最初スタッフに両脇を抱えられないと歩けなかった子どもも、回数を重ねるごとに徐々に歩けるようになっていた。

父親の賢史さん(43)と一緒に参加した小学4年生の井野口大真(はるま)君(10)は、「転びそうになったけれど、前を向いて頑張ったら歩けた」と感想を話した。

体験用義足

体験会に続いては、「アスリートに挑戦」のコーナー。司会の新保さんの「村上選手と一緒に走ってみたい人?」との問いかけに、大勢の子が「はい」「はい」と言いながら手を挙げる。最初、「よ~い」の声がかかった時点でスタートを切る子どもが何人もいて、やり直しとなり、会場は笑いの渦に包まれた。

約20メートルの「本番」レースでも、フライングの子どもが数人出たが、村上選手も中盤から追い上げ、一緒に走った約20人の真ん中ぐらいの順位でゴール。「村上選手に勝てた」「残念だった」との声が子どもたちの間から上がった。


続いて登場したのが、高平さん。こちらの走る距離は、約30メートル。村上選手の夫で、ボブスレー日本代表の村上健二選手も飛び入り参加した。

スタートラインに並び、いざスタートという時に、子どもの一人が「絶対、勝ちたい」。それに対して高平さんが、「それはこっちだって一緒だぁ」と返すと、どっと笑い声が起きた。やはりフライングの子どもがいて、スタート直後はリードを許したものの、10メートルあたりから高平さんがぐんと加速して、圧勝という結果となり、見守っていた保護者から「さすが」との声が出ていた。


車いすバスケットボールでは、高平さんのチームメイトとして、この日、イベント運営のサポート役として参加していた地元の高崎健康福祉大高崎高校陸上部のメンバー4人の「参戦」が急きょ決まり、塚本さん、上村さんペアと5対2で対戦した。

試合形式は2ゴール先取。パラリンピックのメダリストコンビは人数差をまったく意に介さず、2分もたたないうちに連続ゴールを取って見事勝利。続いて、メンバーを3人増やし、8対2で対戦したものの、同じように連続ゴールを決めて勝利をおさめ、その実力のほどを参加者に示した。

「楽しかったら、ぜひチャレンジ」…車いすバスケ・塚本

イベントの最後には、3人のゲストと上村さんが、参加者にメッセージを送った。その中で、高平さんが、「子どもも大人も楽しんでもらえたようでよかったです。こういったイベントをきっかけに、スポーツおよびパラスポーツへの理解を深めていただきたい」と話したのに続いて、村上さんが、「障害者スポーツは、障害者と一緒にできるスポーツなので、こういう機会があれば、どんどんチャレンジしてもらい、知ってもらい、さらに広めていってほしいです」と呼びかけた。

続いて、塚本さんは、「きょうの体験をきっかけに、パラスポーツにより関心を持ち、応援していただければと思います」。上村さんは、「車いすバスケットボールは、障害者と健常者が一緒に楽しめるスポーツ。きょう体験して『楽しかったな』と思う人がいたら、ぜひチャレンジしてみてください」と締めくくった。

イベント後には、それぞれのゲストと参加者が記念撮影する風景があちこちで見られた。小学2年生の長女・翠(すい)さん(8)と参加した主婦の井上智子さん(39)は、「パラアスリートの方から直接、話を聞くことができて、パラスポーツがとても身近に感じられるようになりました。これまであまり見てはいなかったのですが、来年の大会はしっかり見たいと思います」と話していた。

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